式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

4 清潔こそ命

式正織部流茶のご挨拶は拳骨でします。

拳骨を畳に着けてご挨拶するのは、手の平を汚さない為です。

 

前回(2020.4.14)にアップした記事「ご挨拶は拳骨で」では、手の平を畳に着けて平伏するのは危険だから、と言っていたのに「手を汚さない為だ」と前言を翻すなんて、本当はどちらなの? と言われてしまいそうです。まぁ、これもウニの針の一つ。ご挨拶の変遷を辿れば、初めは防御の姿勢でしたが、次第に習慣化され、この形が武士の間では普通の挨拶の形になって来たので、どちらも有りなんです。

 

畳は常に足の裏で踏まれています。足の裏で踏んだ畳に掌を着けるという事は、手を汚す事になります。ですからお点前をする時、亭主は手を握って拳にし、手の内側を守るのです。

また、清潔さを保つ為に、式正織部流では茶杓や棗や茶入れを畳に直置きしません。必ずお盆に載せるようにしています。

手を清める手巾と、茶碗を清める茶巾は別々に用意します。茶巾は一つのお点前で何枚も使います。茶碗は必ず茶碗台に載せます。

袱紗は二枚使います。清める対象によって袱紗を使い分けます。式正織部流は清める為の所作の数がとても多いのです。

そして、これが最も肝心な事ですが、各服点てと言って、薄茶も濃茶も、お客様それぞれにお茶を差し上げます。どういう事かと申しますと、普通濃茶では、少し大き目な茶盌に何人分かをいっぺんに練って、それをみんなで回し飲みをします。式正織部流はそれをしません。

濃茶の場合でも、当流では回し飲みは絶対にしません。必ず各人にお茶を点てて差し上げます(濃茶でも練らずに点てます)。他人が口を着けた茶碗を次の人に回す、などとはもっての外の事なのです。

 

織部武家茶を編み出した当時、武家茶を嗜んだのは大名達です。一人一人それぞれ独立峰の如く屹立している方々です。ですからそれを尊重し、一客一盌を以って遇し、礼を尽くすのです。