式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

5 拳骨の作り方

古田織部は武人。武士の挨拶の仕草をそのまま茶席に持ち込みました。

 

拳骨は次の様にして作ります。

先ず親指を折り、それから他の四指(人差し指・中指・薬指・小指)を折って、親指を内側に隠します。親指は外に出しません。

何故?

親指を切り落とされてしまえば、防戦の為に刀を握る事が出来なくなる、と言う意識から生まれた習慣です。その為、他の指よりも親指を大切にした、と聞いております。 

本当?

 言い伝えが正しいかどうか婆には検証する術がありません。ただ、乱世を生き抜くには、常に油断も隙も無く身構えている必要があった筈だ、と推測するのみです。

 

相手が友好的に振る舞っていても、腹で何を考えているか信用ならず、祝いの席に呼ばれて暗殺されたり、病気見舞いと称して襲われたり、何時その場が修羅場に転じるか分からない時代でした。頭を下げて挨拶している時に、親指を隠すというのも、防御の構えから来ています。

ではありますが、親指を狙ってわざわざ切り落とさなくても、手首を狙えばいい訳ですし、それより胡坐を掻いて腰から体を曲げて頭を下げると、頭は膝頭より前に出ますから、手首より先に首を狙えばいい訳です。そう言う事を色々考えてみますと、親指を隠しての拳の挨拶は、急の襲撃に咄嗟に体をかわして攻撃に転じない限り、勝ち目の無い防御の姿勢の様に思えてしまいます。

なんて残酷なシーンを、婆は思い浮かべてしまうのでしょう。あゝ、嫌ですね。こんな事を想像するのは! 婆は、今の世の中に生まれて来て良かったと、つくづく思います。