式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

6 武士は蛮族

武家茶、武家茶と言うけれど、そもそも武士って一体何なのだ?

一言で言えば、武士は蛮族です。

 

「侍」ってカッコいいです。それだからでしょうか。「侍ジャパン」「サムライ○○」など、侍を冠した言葉が巷に溢れています。

己を磨くストイックな姿。死地をも恐れず果敢に挑んで行く精神。大義や忠義に生き、四角四面の「左様」「然らば」の暮らしぶり。私達が抱いているこのような「武士」のイメージは、江戸時代から現れて来た武士の姿です。

では、それ以前はどうだったのでしょう。

 

彼等は元々土地や権益を守る為に武装した者達です。それが侵されそうになると、集団でそれに対抗し、戦いました。人を殺すのを何とも思わず殺戮を平然と行う、それが武士であり、彼等の職業だったのです。暴力は当然と考えています。

「暴力は絶対にいけない」と言う現代の道徳律は通用しません。

戦場で相手を殺すと戦果の証として相手の首を刎ねます。首を幾つ取ったかがその人の武勲です。兜首(大将首)を取って意気揚々と主君の前に出て首実検に供します。首が少ないと功績を低く査定されるので、適当にその辺の庶民の首を刎ねて首の数に加えるという事もしたそうです。

 

侍に道徳的な倫理観が備わって来たのは、恐らく島原の乱以後五代将軍徳川綱吉が、武士に儒学を奨励し、更に「生類憐みの令」を出した頃からです。

「生類憐みの令」は「お犬様」の保護を命じるだけの法ではありません。生きとし生けるもの全てを慈しみなさいというお触れで、捨て子を禁じ、老人や病人を介護しなさいという福祉の面を持っておりました。

 

聞くところによりますと、古武術には確実に動脈を狙う致死の技や、急所を一撃で衝いて相手の戦闘能力を奪う組打ちなどがあったそうです。現在行われている剣道や柔道とは違う殺人の為の武術が全盛だった事を思えば、武士は蛮族と決めつけても、あながち婆の独断的偏見ではありますまい。