式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

52 鎌倉文化(8) 物語

前項「51 鎌倉文化(7) 日記・随筆」で方丈記を取り上げましたので、余談として「利休とあさがお」についても触れました。この時代の文学作品には茶飲み話によさそうなおもしろい話が沢山あります。

今昔物語

『今は昔・・・』で始まる今昔物語は、インドや中国からの伝承話や、日本各地などのお話から採話した短編集です。1,000話以上あり、全31巻に及びます。

仏教説話や怪異、霊威などの話に加えて、強盗・殺人・不倫・騙しなど極めて世俗的な話がてんこ盛りに描かれており、後世の作家に影響を与えています。

能の演目「弱法師(よろぼし)」は、今昔物語の中にあるアショーカ王の盲目の王子から想を得ているそうですし、500人の盗賊が500羅漢の元だったなどと言う話もあります。芥川龍之介の「鼻」「羅生門」等も今昔物語に由来しています。「虎の威を借りる狐」の話は、途中まで中国の「戦国策」に出て来る「借虎威」に似ていますが、今昔物語の結末では、狐が悔い改めて神様になります。

今昔物語以前の物語はどちらかと言うと、源氏物語伊勢物語の様に貴族の恋愛などが中心でしたが、平安末期から鎌倉期に入ると、ぐっと庶民的になります。

 

とりかえばや物語

とりかえばや物語」は、平安末期に書かれた物語です。

女性的な男の子、男性的な女の子を持った関白左大臣が、二人の性が取り替わったらいいのになぁと嘆く事から始まる物語で、非常に今日的なテーマを含んでおります。

几帳の陰に隠れて琴を弾く美しい息子、狩衣を着た凛々しい娘。妹は若い貴族として宮中に出仕して出世街道をまっしぐら、兄は女東宮の内侍(ないし)として仕え、恋愛や結婚に話が膨らんで行きます。

 

宇治拾遺物語

宇治拾遺物語は、宇治大納言物語が基になっているのではないか、と言われております。

宇治大納言物語そのものは散逸してしまって、今に残っていないそうですが、宇治拾遺物語は197話、15巻からなっています。今昔物語とも重なり合う部分があるそうです。昔話でよく聞く話が、宇治拾遺の中に結構含まれております。

例えば、「わらしべ長者」「こぶとり爺さん」「五色の鹿」「絵師良秀の火災」「袴垂」「芋粥」等があるかと思えば、「伴大納言応天門の変」等の歴史物もあり、収められている内容は変化に富んでいます。

 

軍記物語 

軍記物語は、合戦の数ほど沢山あります。

中でも保元(ほうげん)物語、平治物語平家物語、承久(じょうきゅう)記、源平盛衰記太平記義経(ぎけい)記などは良く知られています。

保元物語平治物語平家物語と承久記の四つを合せて、四部合戦状(しぶかっせんじょう)、または四部合戦書と言って、四つの物語を通すと、1156年の保元の乱勃発前後から平家の滅亡、土御門上皇を土佐へ配流(はいる)するまでの歴史が分かります。

 

平家物語

平家物語は仏教世界の諦観を背景に、流れるような名文で語られており、心を打つ場面が多くあります。「50 鎌倉文化(6)和歌と五山文学」の項で、『さざなみや志賀の都は‥』の平忠度(たいらのただのり)の歌を載せました。その歌は平家物語の中で、西国に落ちる忠度が師の藤原俊成に歌を託して別れましたが、その時託された歌がこの歌です。

文体は和漢混淆文(わかんこんこうぶん)です。琵琶法師によって広く流布されました。四部とも、推定される作者は何人か居ても、これぞと言う確定的な作者は未だ判明していません。

 

太平記

後醍醐天皇鎌倉幕府討幕を企ててから、南北朝を経て室町時代の中期・足利義満の代までが和漢混淆文で書かれており、全40巻あります。

太平記は一般的には僧・慧鎮(えちん)の作と伝えられていますが、真偽の程は分りません。天台宗の僧・玄恵(げんね)とその子・伊牧と言う説、一条兼良と言う説、慧鎮の居た法勝寺の何人かによる集団制作、近江の小島法師と言う説など諸説あります。

成立時もはっきりしません。初めに全30巻が完成した時点で足利直義に見せた所、直義から史実とは大いに違うと言われ、大幅に書き直しをさせられました。それを伝え聞き、功名の記載を願い出る者が続出、修正に修正を重ねて行きました。このような経緯、特に足利直義の命によって変更を余儀なくされた事から、足利氏に都合の悪い所は改められたりしていますので、公平さは担保されていません。

楠木正成の活躍や東照寺合戦など、英雄伝や涙を誘う悲劇など様々なエピソードに彩られた太平記は、出色の読み物と言えます。戦国武将達の兵法書だったとも愛読書だったさも言われています。