式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

54 鎌倉文化(10) 絵巻物

歌を詠み管弦の遊びに興じる大宮人から、軍馬を駆り雄叫びを放つ武士の世に変わると、光華やぐ昼から光が消え、芸術も急に陰った様な感覚に襲われます。

けれどそれは、外出先から帰って玄関に入った時に感じる一時の暗さであって、目が慣れると、そこに様々に優れたものが見えてきます。

それ迄の絵巻物の人物は、引き目鉤鼻の類型的な顔でしたが、平治物語絵巻になると眼に瞳が点じられるようになります。また、手が描かれるようになり、口を開けたり頬骨が描かれたりして、現実的な人物に近づいてきます。(源氏物語絵巻では手が描かれる場面は少ないです。)

絵巻物は、扱う内容によって、寺社の縁起物、祖師や偉人の伝記物、軍記物、仏法説話などに分類できます。鳥獣戯画はこの分類からはみ出して独立したジャンルを作っています。

 主な絵巻物

北野天神縁起絵巻(承久本) 国宝

鎌倉時代初期のもので、菅原道真の 生涯と、失意のうちに亡くなった道真の怨霊が復讐を果たしていく物語です。承久本、正嘉本、弘安本、建治本など幾つかの絵巻が作られています。承久本は縦52cm、長さ80m。紙本着色。

当麻(たいま)曼荼羅縁起絵巻 国宝

信心深い中将姫が当麻寺に入り、御仏に会いたいと念じながら蓮糸で曼荼羅を織り始めます。織物完成後、姫は阿弥陀仏の来迎を拝し往生します。紙本着色。金泥、截金使用。

法然上人絵伝 国宝

この絵巻は法然上人の一生を描いたものです。13世紀中頃に先ず2巻が作成され、その後、弘願本、増上寺本等々が出来ました。描き継ぎや改編などが行われ、15世紀頃迄描き続けられ、結局全48巻になりました。世代を超えて絵師も10人以上関わっております。紙本着色。縦32.7cm。

法相(ほっそう)宗秘事絵詞 国宝

法相宗の開祖・玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)法師の伝記を描いたものです。唐からインドへ求道巡礼の旅を行い、万巻の経典を持ち帰って翻訳に生涯を捧げた物語を全12巻に収めて描いております。紙本着色。

華厳宗祖師絵伝 国宝

これは新羅華厳宗の祖師義湘と元暁の物語です。筋立ては安珍清姫に似ていますが、義湘に恋する善妙が海に飛び込み、竜に化身して船を背負って無事新羅に届ける、と言う物語です。これは、明恵上人が描かせたものです。兵乱で夫を処刑された女性達の為に善妙寺と言う尼寺を建て、善妙の話と女人成仏の話をして、女性を救済をしました。紙本着色。 

鑑真和上東征絵詞 国宝 

 1298年、鎌倉にある極楽寺の開山・忍性が絵師に描かせ、唐招提寺に奉納したもの。内容は、鑑真和上が幾多の困難を乗り超えて日本に渡来した物語です。紙本着色。全5巻。

平治物語絵巻 国宝

1159年に起きた平治の乱を絵巻にしたもの。初め15巻位あったそうですが、現存するのは、ボストン美術館静嘉堂東京国立博物館の合わせて3巻だけです。あと断簡が幾つかあるようです。群集描写、合戦の有様、武具甲冑などの精緻な描き込み、人物の表情など合戦絵の最高傑作と言えるでしょう。紙本着色。

蒙古襲来絵詞

1274年の蒙古襲来の時(文永の役)と1281年の弘安の役の両度に亘り、肥後の御家人竹崎季長(たけざきすえなが)は、自分の華々しい武功を子孫に伝えるために描かせた、と言われています。季長はこの絵を神社に奉納しております。

鳥獣人物戯画 国宝

高山寺に伝わっている絵巻物で、甲・乙・丙・丁の4巻あります。近年の研究により、部分的に入れ替えがあったりしているようです。詞書はありません。擬人化されたウサギ、サル、カエルなどが天真爛漫に遊び興じている様や、架空の動物などが描かれております。

佐竹本三十六歌仙絵巻

残念ながら、この絵巻は1919年に絵巻の形を失い、分割して切断され、個々の好事家の手に渡ってしまいました。

絵解き絵巻(説教絵巻)

九相図(くそうず)、地獄絵図などの仏法のお説教をする為に、描かれた絵巻物です。義母が小さい時、お寺のお説教で地獄絵図を見せられながら、絵解きを聞いたことがある、と話していました。とても怖かったそうです。数年前に義母は102歳で天寿を全うしましたので、この話は100年くらい前の話です。

 

余談  四大絵巻

日本の四大絵巻と呼ばれるものに、次の四つがあります。

1 源氏物語絵巻

2 伴大納言絵巻

3 信貴山縁起絵巻

4 鳥獣人物戯画絵巻

(以上の内、1,2,3は平安時代のものなので、鎌倉文化の範囲から外しました。)

余談  九相図

人間が死んでから骸骨になるまでの九つの姿を現わした絵です。