式正織部流「茶の湯」の世界

式正織部流は古田織部が創始した武家茶を伝えている流派で、千葉県の無形文化財に指定されています。「侘茶」とは一味違う当流の「茶の湯」を、武家茶が生まれた歴史的背景を中心軸に据えて取り上げます。式正織部流では「清潔第一」を旨とし、茶碗は必ず茶碗台に載せ、一人一碗をもってお客様を遇し、礼を尽くします。回し飲みは絶対にしません。

195 茶席のイロハ

明けましておめでとうございます。

いつもご愛読下さいましてありがとうございます。

これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。

 

昨年の最終稿は古田織部百ヶ条」でした。その余韻を引いて、婆なりの茶席のイロハを綴り、年の初めの書初めにしたいと思います。

これから述べる事は、初心者向けのアドバイスです。主に茶会に出席する時の心得について述べます。

 

1 香りつつしむ

茶道では、お稽古の時でも、お茶会の時でも、香り・匂い・臭いは厳禁です。

香水、オーデコロン、匂い袋、頭髪剤、化粧の匂い、着物の防虫剤、洗剤の芳香剤、口臭、体臭などなど、香りや臭いを放つものを、茶席に持ち込まないようにしましょう。

上記の香り成分は抹茶の香りを打ち消してしまいます。また、亭主はその日の趣向に合わせて茶席に香を焚いたりしていますので、それも台無しにしてしまいます。

 

2 金物や硬い石は身につけず

茶席に呼ばれてそれなりに身嗜(みだしな)みを整えても、アクセサリーは極力着けずに行きましょう。

時計、ブレスレッド、指輪、ネックレス、イヤリング、帯留め、髪飾りなどなど、金属製のものや堅い石・陶器類は茶席では外します。メタリックな衣装なら最初から着て行きません。

茶碗、茶入、棗、その他の茶道具などを傷つけない為です。それ等には由緒ある物も多く、傷をつけたら大変です。また、由緒など無い新しいものであっても、物を大切にするのが茶道の心得です。新しい物はこれから歴史をその上に積み重ねて行く物ですので、そのスタートラインに立った物達への慈しみを以って、丁寧に接して行きましょう。

 

3 髪型について

頭髪は髪の毛やフケが散らからないようにします。長い髪の毛は纏めます。短い時はきちんと手入れをして清潔にし、毛やフケが落ちないようにしておきましょう。

アフロヘア―、ドレッドヘアーも清潔を保ち、毛やフケの心配が無いように手入れをしていれば大丈夫です。但し、いくらこれが自己表現の手段だと主張しても、ボサボサの蓬髪(ほうはつ)は不潔で見苦しくて頂けません。

 

4 ネイルアート

近頃ネイルアートと言って、爪に色を塗り装飾を施すのが流行っております。特に若い女性に人気があり、「かわいい」が合言葉になってネイルサロンが繁盛している様です。が、茶席では「かわいい」は美の基準にはなりません。「わび」と「さび」です。

赤や緑や紫や、花柄や星柄などに彩られた十個の爪が、茶碗を持つ手の先にチラチラと動くなど、折角の茶碗の景色が損なわれ茶碗が泣きます。場の雰囲気をぶち壊します。

もし、どうしても爪を美しく見せたいのなら、何の色味も装飾も無い透明な塗りにしなさい。

 

5 着る物について

まず、式正織部流の茶会の時の、亭主やスタッフについてお話しをします。

式正織部流は武家茶です。武家の装いが目安になります。男性ならば城勤めの装いに準じて紋付・袴です。着流しはありません。女性ならば武家の妻や娘のように、地味な着物が薦められています。制服的な着物はありませんが、色無地や小紋などが定番です。江戸小紋などは江戸城に登城する時の裃の柄から来ていると言われていますので、それを愛用する人もおります。着物が目立ちますと、お点前から目が逸(そ)れて、そちらにばかり視線が行くようになってしまいます。着物を競う場にもなりかねません。質実剛健を旨とする武士の風を肝に命じ、茶会に臨みます。お稽古の時は、普段着の洋服を着ていても全く問題ありません。これが、当流の和のドレスコードです。

一方、茶会にいらっしゃるお客様について申し上げますと、着る物についての制約が全くありません。清潔で整い、他者に不快な思いをさせない格好であれば、着物でも洋服でも、民族衣装でもとやかく申す者は当流にはいません。地味でも豪華でもお客様のお好み次第です。上記の香りや金属・石などの制約・身嗜(みだしな)みを守っていれば、大丈夫です。

当流の大寄せ茶会などにいらっしゃるお客様の御召し物は、着物と洋服の割合が半々ぐらいでしょうか。若干着物の方が多いかな、という程度の印象です。

参加する時は、懐紙と菓子切り(くろもじ(木製)や金属製等々)が必要です。洋装の方は茶室では白いソックスを履きます。

当流では扇子を特に必要としません。

 

6 扇子について

他流では扇子は必帯です。式正織部流では扇子を脇に差しますが、扇子の出番はありません。

他流ではご挨拶の時、扇子を膝前に置いて挨拶をします。躙(にじ)り口に入る時も床拝見の時も、扇子を膝前に置きます。ところが、式正織部流ではいずれの時も握りこぶしを作り、両膝脇の畳に拳を突いて上体を腰から曲げ、礼をします。扇子を膝前に置いての礼はありません。

他流で扇子を膝前に置いて礼をするのは、扇子が結界を表し、結界の先に居る人、或いは床などの空間に対し、敬う姿勢を表す為です。

式正織部流は扇子を刀と見立てています。刀を腰から抜いて相手との間に置くのは、これより手前に入ってはならぬ、当方もそちら側へは入らぬという意味での結界で、相互不可侵の線引きの印と、今は亡き大先輩・松本瑞勝から聞いております。

また、扇子を刀と見立てている事から、刀を腰から抜くのは戦う事を意味します。更に、刀(扇子)を膝前に置いて頭を下げれば、刀を前に差し出す図に似ていて、降伏の姿勢や或いは切腹の場面に似ていると、その松本から教えられました。当流の者は扇子を挨拶に使いませんので、婆もそれに倣(なら)っております。

このように、いろいろな意味合いに於いて扇子を挨拶に使わないのが当流のやり方です。そこで、時には困る事も有ります。扇子を膝前に置いて挨拶をするのが広く普及し、常識化していますので、違うやり方で挨拶をすると「失礼な人だわ」と思われるのか、幽(かす)かに顔を曇らせる方もいらっしゃいます。ま、そういう事情ですので、武士の作法と思って温かく受け入れて下さると、大変有難いです。こういうやり方もあるのだと、多くの方に知っていただけると嬉しいです。

結論は、式正織部流では扇子は帯の間や袴の腰に差したままです。実際には使わないです。

 

7 留め石(とどめいし)は進入不可の標(しるし)

茶室への道に従って進んで行った時、もし、留め石を途中で見つけたならば、留め石を跨(また)いだり、その脇を通ったりして、その先に行かない様にして下さい。ましてや邪魔だからと言って、手で退(ど)けてはいけません。

留め石と言うのは、これより先に進んではならないと言う石です。今で言うロードコーン(カラーコーン)の様な役目をしている石で、大きさは漬物石ぐらいです。棕櫚縄(しゅろなわ)で十文字に縛られた漬物石風の石が留石で、大抵は飛び石などの上に乘っています。

茶亭へ続く道が一本道ならば、留石にお目にかかる事はまずありません。途中で道が二股に分かれる様な場所のどちらか一方に、往々にして置かれています。

留石は、主催者側が、これから先に進むと困るという意思表示でして、例えば、水屋の裏口へ通ずる道や、お寺の庫裏(くり)へ行く道、茶室の持ち主の住居へ至る道などなどです。留石は関係者以外立ち入り禁止の暗黙の約束事なのです。

(留め石の別名は「止め石」「関守石」「関守」「踏止石」「極め石」などなど)

 

8 お茶会デビュー

お茶会の券を貰って、生まれて初めてお茶会に出席する様な事があった時、色々な事に悩むと思います。「何を着て行ったらいいのだろう。どう振る舞えばいいのだろう。何にも分からないから怖い」と・・・でも、全く怖がることはありません。清潔で整った衣服を着て、今まで述べた様な約束事を守っていれば、大丈夫です。もし、お茶券を頂いた方と御一緒でしたら、その方の真似(まね)をしなさい。もし、その方もまるで初心者だったならば、お菓子もお茶も上座から下座へ順次運ばれてきますので、自分より上座に座っている方々のやり方を真似れば大丈夫です。

もし、不安ならば、お菓子やお茶を運んで来た主催者側のスタッフに尋ねる方法も有ります。折角ですから、その時主催している流派のやり方を学ぶチャンスと心得て、積極的に聞きましょう。知らない事は恥ずかしい事ではありません。知らない事を放置する方が恥ずかしい事です。まして、知ったかぶりをして自己流を通せば、自分の成長の芽を自ら潰す行為になってしまい、あとで悲しい思いをしなければなりません。

式正織部流の場合、他流と違う箇所が幾つもあります。各服点てだったり、茶碗台が付いていたりして、戸惑われるかと思いますので、その時はどうぞ遠慮なくスタッフに聞いて下さい。また、既にどこかの流派に入門しているのでしたら、そのお流儀に従って振る舞えば良いと思います。拳の挨拶と扇子の挨拶、違う挨拶が向き合うのも、また善き哉です。

 

9 お菓子の頂き方

お茶席ではお茶が供される前に、必ずお菓子が出されます。薄茶の時は干菓子、濃茶の時は主菓子(おもがし)と大体決まっています。

① お菓子は菓子器に盛られて上座のお正客様から順番に回ってきます。そろそろ自分の前に来ると思われるタイミングで、懐(ふところ)から懐紙(かいし)を取り出します。そして、何枚も重ねられた懐紙を束のまま出して、折ってある「わ」の方を手前に、合わせ口を向こう側にして膝前に置きます。それから、一番下になっている紙(直に畳に接している面)を一枚、下から上にめくり上げて向こう側に折り、中表にして懐紙の一番上に置きます。

 

② 菓子器が目の前に来ますと、右隣り(上座)のお客様に「有難うございます」の意を込めて、無言のまま軽く会釈のご挨拶を行います。そして、左隣り(下座)のお客様に「お先に」の意で軽く無言の会釈をします。この時、隣のお客様との間にお菓子器を移動させることはしません。自分の前に置いたままお菓子を取ります。これが式正織部流のやり方です。

式正織部流では、自分の所に出されたお菓子はそのまま素直に受け取って頂きます。他者へ回す仕草(しぐさ)はしません。当流は数寄屋御成の書院などで行う正式の茶の湯です。頂く物を他者へ回すと言う行為は、それが単なる仕草であっても、お菓子を出す側に対して失礼に当たります。

他流では違っています。上座のお客様は下座のお客様に「お先にどうぞ」とお菓子を譲り、菓子器を左に移動させます。左のお客様が「いえ、そちらこそどうぞお先に」と遠慮なさいます。すると、上座のお客様はそれを自分の方へ戻します。この様に互いを思いやり、菓子器が左へ右へと移動します。

 

③ お箸でお菓子を取り終えた後、懐紙の隅をちょこっと折って箸の先端を拭き清め、箸を器に戻して次の人に菓子器を回します。

 

④ さて、お菓子を直ぐ召し上がってはいけません。お正客(しょうきゃく)がお菓子を頂きましょうと促すまで待ちます。そして、お正客がお菓子を召しあがるのを見てから、お菓子を頂きます。お正客は居並ぶ客一同のリーダー役です。客は何事もお正客に従います。

お菓子を載せた懐紙を手に取り、黒文字などの菓子切で、お菓子を頂くごとに一口ずつ端から切り分けて頂きます。練切りや羊羹等は切分けますが、饅頭(まんじゅう)落雁(らくがん)等は手で割って頂きます。

 

或る時、外国人のグループが和の体験とかで、先生の茶室を訪ねて来た事がありました。その時、お手伝いに上がり、お運びさんをしたのですが、お菓子は「くろもじ」という小さな木のナイフで切り分けて食べると説明をしましたら、想定外の切り方をした方が何人かおられました。主菓子を最初に全部スライスしてしまった方、賽(さい)の目に切った方、切らずに黒文字で突き刺して召し上がった方もおりました。

賽の目に切った方は、練り切りの御菓子が見るも無残に崩れてしまって黒文字で食べる事が出来なくなり、散薬を口に入れる様にして召し上がっておりました。菓子を黒文字で突き刺した方は一口で頬張り、リスの様にほっぺを膨らませて、もぐもぐさせていました。

御菓子を切るという説明でも、直ぐには通じない文化の違いが有るのだと、つくづく思いました。

 

10 お茶の頂き方

お菓子の後は、いよいよお茶が出て来ます。茶道では、お茶を頂くのを「飲む」と言わずに「服す」と言います。お茶が平安・鎌倉時代では薬として扱われていた名残りです。

 

他流では、濃茶と薄茶の服し方に違いが有ります。

濃茶は、抹茶を練ったものです。とろっとした粘性があり、そのお茶が入った一碗を、数人で回し飲みをします。薄茶は一人一人別々の茶碗に点てて、それを頂きます。

頂く時、左右に座る人にご挨拶をした後、左手の上に茶碗を載せ、右手で時計回りに茶碗を2回まわして正面を避け、それから服します。服し終わったら、また右手で茶碗を反時計回りに2回まわし、茶碗を元の正面の状態に戻します。婆は他流の事を余り知らないので、これ以上の細かい事は差し控えさせていただきます

 

式正織部流のお茶は、お客様同士の間で回し飲みを絶対しません。各服点(かくふくだて)といって、一人に対して一つの茶碗でお茶を点てます。

他流との違いは、濃茶は練らずに点てます。薄茶も点てます。その為、濃茶も薄茶も全く同じ外見をしております。違うのは、濃茶用と薄茶用では抹茶の種類が違う点と、それぞれの分量が違います。中身が違うだけですので、外から見ただけでは区別がつきません。外見では、濃茶も薄茶も、細かい泡がカプチーノのように表面を覆っています。泡が表面を覆っていますので香りが逃げず、また、味もまろやかです。

濃茶・薄茶のいずれの場合でも、お茶碗は茶碗台という大振りの茶托の上に載せられて供されます。茶碗台と言うのは、茶托に足台が付いたような形をしております。

 

さて、こうした形状になっているお茶が供され、それを頂くのですが、薄茶の場合、あまり難しい事はありません。

 

① 亭主が点てたお茶は、半東(はんとう)がお正客やお次客に運びます。その下座に居並ぶお客様達には、お運びさんが水屋からお茶を茶碗台に載せて、お客様の目の前に運んできます。

それを畳の上に置いてから、畳縁の境目まで少し前に進め、「どうぞお召し上がりください」の意を込めて、無言でご挨拶をします。

 

② お客様の方は、茶碗台を持って自分の前の畳縁の内側に取り込み、「頂戴いたします」の意味のご挨拶を、これもまた無言で返します。

 

③ お客様は左右のお客様に軽く会釈のご挨拶を無言で行います。茶碗を左に移動させるようなことはありません。お菓子の時と同じです。

 

④ 茶碗台の上から茶碗だけを右手で取り上げ、左手の上に載せます。茶碗台は畳の上に置いたままです。

それから、手の上の茶碗を1回だけ時計回りでまわして、正面を避けます。

(他流では2回と決められている様ですが、式正織部流の場合は、要は正面を避ければよろしい訳で、ちょっと位置をずらすだけです。勿論、2回まわしても別に間違いではありません。そこは思し召しのままに随意で結構です。)

 

⑤ 1回服して、亭主にご挨拶をします。

お正客様の場合はそこで「結構な服加減で・・」とか「お茶の銘は? 」とか、亭主との会話の遣り取りが有るかも知れません。が、居並ぶお客様の場合は、何人ものご挨拶に亭主は答えきれませんので、声を出してご挨拶を返す様な事はしません。従って、居並ぶ方達は、お茶を捧げて無言の会釈でご挨拶をして、それから2口目、3口目と飲み進めます。

 

⑥ 服し終えたら、茶碗を反時計回りで1回まわして、もとの正面の位置に戻し、茶碗台の上に置きます。すると、お運びさんがその茶碗を下げに参ります。

 

上記⑥を次のように訂正いたします。(訂正年月日・2024(R6).02.02)

婆も耄碌しまして、間違えて覚えておりました。お詫びして訂正いたします。正しくは下記の様になります。少々文章が長くなりますがご辛抱下さいませ。

⑥ お茶を服し終えたら茶碗を茶碗台に置きます。次に、茶碗の飲み口を拭き清めます。まず懐紙1枚を四つ折りにし、茶碗を茶碗台に据えたまま、茶碗の飲み口の内側に懐紙を茶碗面に添う様に当てて右から左へ清めます。次に懐紙を上に引き上げて外に出し、そのまま懐紙を持ち替えずに、茶碗面の外側に添うように当てて左から右へと清めます。こうすると拭き始めた出発点に戻ります。そして懐紙を上に引き上げ、懐紙を水平にして飲み口の上縁部を右から左へ清めます。これで、飲み口の拭き清めが終わりました。汚れた懐紙は汚れ面を内側に折りたたんで、着物の袖か懐紙入れなどに仕舞います。

茶碗を右手で茶碗台から取り上げます。取り上げる前の状態は、時計に譬えれば飲み口が6時の位置、茶碗正面が7時から9時ぐらいの位置になっています。その状態の時、飲み口の向こう正面12時の位置に右手親指を掛けて茶碗を持ち、左手の上に載せます。しっかり載せたら、右手で持っている位置を掴んだまま、時計回りに約1/3周回して、茶碗本来の正面を12時の位置に移動させます。こうすると、お運びさんが茶碗を運ぶ時には、茶碗の正面がお運びさんに向いている事になります。そうなった所で茶碗を茶碗台に降ろします。

茶碗の飲み口を浄め、正面をお運びさん側に向け、茶碗を茶碗台に置いたならば、その茶碗台の羽根を両手で持って、自分の前の畳の縁の外に出します。これが薄茶の時の服し方です。

 

式正織部流の濃茶の場合はお茶碗の下に必ず古帛紗が敷かれています。それなので、薄茶の時とは服し方が少し違います。

濃茶を頂く時は、古帛紗ごと茶碗を取り上げ、古帛紗を手に載せたまま茶碗を時計回りに1回まわして、そのままお茶を服すのが正式な飲み方です。古帛紗をご自身の持つ古帛紗に替える様な事はしません。亭主から出された古帛紗をそのまま使います。

古帛紗と言うのは、縦16.5cm・横15cmの四角い布で、材質は絹、その多くは名物裂(めいぶつぎれ)や、或いはそれを模した柄などが多く、貴重なものです。

古帛紗に茶碗を載せて濃茶を頂くと、飲み口に触れて古帛紗を汚したり、慣れない事をして手が滑ってしまったらどうしよう、とか、色々と心配が出て来ると思います。この時の古帛紗の持ち方にコツが有り、汚れない様な持ち方が有ります。ただ、「ああやって、こうやって・・」と説明するのは難しいです。実地で手を取って説明するのが一番ですが、ブログ上ではそれも出来ませんし、また、実際の茶会であっても、お客様には正式の持ち方を強要しない事になっております。

 

これはお茶会などで何時も皆様に申し上げているのですが、どうぞ正式の服し方に拘(こだわ)らず、思し召しのままに御随意にお飲み下さい、と。古帛紗を茶碗台に置いたまま茶碗だけをお取り上げになり薄茶の時の様に召し上がっても、大いに結構です。粗相を恐れて萎縮するよりも、ご機嫌よく愉しんでいただく方が、なによりも茶の湯の本意に叶っております。

なお、天目茶碗で濃茶を服し終わって畳の縁の外に出す時は、天目茶碗台の羽根では無く、天目茶碗台の一番丸い所・蕪の様に膨らんでいる所(ホウズキと申します)を両手で持って外に出します。

 

 

11 正客の座

茶席のイロハ」のこの項では、初めてお茶を習い始めた方へのアドバイスを主にしております。ただ、正客の話になると、もう少し上の中級・上級の人達へも話が広がります。

正客の座は茶席の一番上座に有ります。亭主と相対する位置です。

大寄せ茶会以外の茶会では、亭主は、この人はと思う様な意中の人物を正客にお招きして、茶会を開きます。そう言う訳で、その場合、正客の座に納まる人は最初から決まっております。

ところが大寄せ茶会となると、そういう訳にもいかず、その場に集まった人達の中から正客を勤めて頂く方を探さなければなりません。正客の大変さをご存知の方は皆ご遠慮なさり、なかなか引き受けて下さいません。色々な茶会でお会いする常連さんの顔を見つけて、この方なら場数を踏んでいらっしゃるだろうからと、その方に正客をお願いするのですが、押し問答をしている内に、全く存じ上げない方が何時の間にか正客の席に座ってしまうアクシデントが起きたりします。

人が遠慮してなかなか正客の座が埋まらない状況を見て、きっと「遠慮する事なんか無いじゃない。空いているんだったら私が座っちゃおう。ラッキー! 」とばかりそこに座ってしまうのでしょう。茶の座席は電車の座席とは違います。席取り合戦は馴染みません。

御菓子の所で申しました様に、正客は居並ぶ客のリーダー的役割を担っております。リーダーの経験値が豊富であれば有る程、その茶席は一期一会の素晴らしい空気に満たされ、茶の湯の楽しみが倍加します。ご亭主とお正客様のお話を拝聴していると、風雅の世界に導かれ、趣向の素晴らしさに目が洗われるような気がします。お道具に対する見識・歴史に対する造詣、禅語への深い洞察力、古文書の読み方などなど伺うにつれ、本当に心からその方を尊敬してしまいます。婆は20年お稽古をしてきましたが、まだまだそこまで手が届かない未熟者です。正客の座にすわるのは怖くて勇気が出ません。

その様な訳ですから、初心者の方は、ゆめゆめ正客の座に座らないようにしましょう。なるべく真ん中らへんに座るのが良いです。正客の座に座るのは10年以上修行してから座りなさい。また、俗世の地位が高い人は上座に座りたがるのですが、一歩譲って、三客目か四客目以下に座りましょう。その方が無難です。

 

12 私語を慎(つつし)みましょう。

「正客の座」で、「ご亭主とお正客様のお話を拝聴していると云々」と申し上げましたが、実は、茶席で亭主と会話が交わせるのは正客だけと、決まっています。他の方は話せません。せいぜい次客までです。その他居並ぶ客は沈黙を守るのが掟です。もし、亭主に質問をしたければ、直接質問するのではなく、正客に質問したいことを申し上げ、正客がその質問を取り次ぐ形で亭主に伺います。亭主は質問した本人には答えず、質問を取り次いだ正客に答え、正客が質問した本人に向かって、或いは客全体に向かって「こういうことですよ」と答えを返します。

時代劇などで、よく殿様と家老と平家臣との遣り取りが出て来ることがあります。そういう時、平家臣が殿様に直接申し上げる事はなく、家老に向かって言上(ごんじょう)申し上げ、それを家老が殿様に取り次ぐと言うシーンをご覧になった事があると思います。まさしくそれと同じ事が行われます。これは、式正織部流が武家茶だからそうしている訳ではありません。一般に行われている侘茶であっても同じ事です。

そうなると、中には亭主と正客の話について行けず、退屈して私語に走る方もいらっしゃいます。下座に座っているからお喋りしても気付かれないだろうと夢中になっている内に、次第に声が大きくなり、ペチャクチャ 々 々 止まらなくなってしまうケースも有ります。囁(ささや)き声でも、意外と遠くにとどくものです。周りのお客様は甚だ迷惑ですので、私語は慎みましょう。

元々、濃茶の時は終始無言で進行します。亭主も正客も喋ってはいけません。静寂を愉しみます。亭主と正客の会話が解禁されるのは、およその点前が終わり、ご両器拝見の頃合いになってからです。ご両器というのは、棗(なつめ)茶杓の二つ、又は、茶入と茶杓の二つを指します。これをご両器と呼びます。

薄茶の時は、静寂への強い縛りはそれほど強くありません。気分も寛いでいます。ご両器拝見の頃になったら、静かに、穏やかにお客様同士で会話を楽しむのも良いかと思います。

但し、濃茶の時も薄茶の時も、いずれもお点前中は無言ですよ。誰だって自分のプレゼンテーション中に私語が盛んにおこなわれていたら、嫌な気分になるでしょ? それと同じです。

厳然たる静寂の時と和みの中の穏やかな会話、緩急自在の妙です。

 

13 お詰めの座

お詰めの座と言うのは正客の正反対で、一番末席の座を言います。末席だからといって侮(あなど)るなかれ。お詰めはアンカーなのです。

御菓子器がお客様を回って来て、最後はお詰めの前にやって参ります。茶席によっては、会記やら、茶碗やら、流派によっては出し服紗やら色々な物が皆様の所を回って、最終的にお詰めの前にやってきます。それをどうにかするのがお詰めの役目です。

尤も、亭主を助ける半東(はんとう)と言う役目の人がいて、その人が状況を見ながらお運びさんを指揮して円滑に進行させて行きますので、心配する程大変ではありません。が、場合によっては半東の目が届かない事も有ります。そんな時、お詰めの人が気を利かせてお運びさんに声を掛けたりして、座の進行を助けます。

 

余談  半東(はんとう)とお運びさん

この項で度々出て来る「半東」という役割の人ですが、半東は亭主の片腕となって、亭主を助ける人の事を言います。大概は亭主の後ろに控えて座っており、主に正客や次客に対応してお菓子やお菓子やお茶を運んだりします。半東はそれなりの熟達者が当たり、茶席の全体の進行を把握します。

お運びさんは、水屋で陰点てしたお茶を、居並ぶお客様に運ぶ人です。